PyCon JP 2026

環境構築なしで始める配列解析:ブラウザPython×Wasmで実現するアラビカコーヒーのサブゲノム解析

この発表では、ブラウザ上で動作するPython実行環境(Pyodide)とWebAssemblyを組み合わせ、配列解析などの軽量なバイオインフォマティクス処理を「環境構築なし」で実行できるツール(Pyowasm)の設計と実装について紹介します。

バイオインフォマティクスでは、CWLやNextflowなどを用いて複数ツールを組み合わせた解析が一般的ですが、その実行には依存関係の解決や環境構築が必要となり、小規模な解析や試行においては大きな負担となります。本ツールは、この「軽い処理のための重い準備」を解消することを目的としています。特に、試行的な解析を素早く行いたい研究者や、環境構築に不慣れなユーザーにとって有効です。

紹介する実装では、高級コーヒーとして知られるアラビカ種(Coffea arabica)のサブゲノム解析を題材にします。アラビカ種はカネフォラ種とエウゲニオイデス種の交雑による異質四倍体であり、本ツールを用いて、どちらの親種由来の遺伝子が発現しているかを配列レベルで特定するオーソログ解析(RBH)を、複雑な環境なしに実行できることを示します。

このようなブラウザ上での解析実行を可能にするために、PythonとJS/Wasmのランタイムを跨ぐブリッジ設計に加え、ブラウザ環境では既存の高速アライメントツール(DIAMONDなど)が利用できないという制約を踏まえ、k-merベースの探索手法をPythonで再設計しました。さらに、コード管理と配布を両立する自動化の仕組みをどのように構築したかを解説します。これにより、ブラウザ上でPythonベースの解析ツールを設計・配布するための実践的なアプローチを示します。

Tell us about your own experience with this topic

この発表で扱う内容は、本ツールの開発を通じて得た実践的な経験そのものです。これまで主にPythonを用いた実装・ツール開発を行ってきましたが、バイオインフォマティクスにおける環境構築の手間については課題として認識しつつも、深く掘り下げて考える機会は多くありませんでした。

本ツールの開発では、ブラウザ上でPythonを動かすという前提のもと、PyodideとWebAssemblyを組み合わせた構成を採用しました。その過程で、Python・JavaScript・Wasmという異なる実行環境を連携させる設計や、仮想ファイルシステムを介したデータ受け渡し、非同期処理の調整といった課題に直面しました。また、ブラウザ上で実用的な速度を実現するために、k-merを用いた探索の高速化など、アルゴリズム面のほか、開発体験を損なわないようstliteへのコード埋め込みを自動化するツールといった工夫も行いました。

こうした試行錯誤を通じて、ブラウザ上でPythonを活用する際の実装上の課題と、その解決手法を具体的に蓄積してきました。

What discussions can you have with attendees through this talk?

本発表の内容を踏まえ、ブラウザ上でのPython実行やWasm活用について、参加者の皆さんの実践的な経験と照らし合わせながら議論できればと考えています。特に以下の点について意見交換したいです。

  • Python + Wasmによるブラウザ実行は、どのような規模・用途で実用的か。また適用が難しかったケースは何か
  • Pyodide・JavaScript・Wasm(BioWasm等)を組み合わせる際、責務分担やデータ連携(VFS・非同期処理)をどのように設計するか
  • stlite等への埋め込みや配布を前提とした開発において、コード管理・テスト・自動化をどう実現するか
  • BioWasmのようなWasmライブラリの活用・整備について、他分野も含めた事例や知見
  • 既存の方法(DIAMONDなど)が利用できない制約下で、代替手法をどう設計し、その判断やトレードオフをどう考えるか

これらを通じて、ブラウザ上でPythonとWasmを組み合わせた実行環境の実用性と設計パターンへの理解を深めたいと考えています。

The speaker's profile picture
廣田 哲也 (Tetsuya Hirota)

株式会社ドッグラン の廣田 哲也 (Tetsuya Hirota) です。
ドッグランでは、主に生命科学に関するデータベース構築、データ検索システム、データ可視化システムの開発を行っている一方で、私は製造業向けのシステムの開発を行うことが多いです。
その本業とは別に、主に子供たちに向けたプログラミング講座を、2016年から牧之原市の生涯学習講座として開催しています。